研究概要 |
野生型アデノ随伴ウイルス(AAV)はそのウイルスゲノムを第19番染色体AAVS1領域(19q13.3-ter)に特異的に組み込む性質を有しており、遺伝子治療用ベクターへの応用が期待されている。この部位特異的組込みには、ウイルス由来のRep蛋白質とウイルスゲノム両端のITR(inverted terminal repeat)を介すると考えられている。しかし現在用いられているAAVベクターではRep遺伝子を取り外してあり、この重要な特性を失われている。この点を解決する手段として、RepとITRを利用したTVI(targeted vector integration)法が最近開発された。AAV-RepにはRep78,68,52,40の4種類が存在するが、本研究では、どのRepがAAVS1領域への特異的組込み反応に必要とされるのかを明らかにするために、各々単独発現するプラスミドを構築し、AAV-ITRで挟んだneo^r遺伝子発現ユニットを持つベクタープラスミドと共に293細胞にトランスフェクションした。その後、AAVS1領域への特異的組込みの有無をPCR法にて検討した。また、染色体への組込み効率の指標としては、G418存在下での培養により安定形質発現を調べ、その効率を比較検討した。その結果、Rep78,68を発現させると特異的組込みが認められたが、Rep52,40は無効であった。安定形質発現の効率はRep78を発現させた場合に高く、Rep68の効果は認められなかった。尚、Repの細胞障害性に関する検討では、Rep78,68に強く認められ、Rep52,40の場合は軽度であった。安全性の高い染色体部位特異的遺伝子導入法(TVI法)を確立していく上で、本研究結果は重要な知見と考えられる。今後の課題としては、細胞内に遺伝子を入れるステップにどのような方法を用いるか、細胞障害作用を有するRep蛋白質をどのように一過性に働かせるか、などといった点が挙げられる。
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