研究概要 |
腎不全における副甲状腺機能異常の機序は,確立した継代培養細胞がないため,細胞レベルでは充分に解析されていない.この研究では,副甲状腺初代培養細胞が生理的性質を維持している短い期間にアデノウイルスベクターを用いて機能遺伝子を導入し,その機能を制御することを目標とした. まず,摘出したヒト腫大副甲状腺の連続切片で,ビタミンD受容体(VDR)蛋白と核増殖抗原(PCNA)の免疫染色を行った.VDRとPCNAの陽性率は有意な負の相関を示し,しかもびまん性過形成の中にみられる小さな結節では周囲に比べてVDRが減少しPCNA陽性細胞が増加しており,VDRの減少が細胞増殖に直接関連していることが示唆された.一方,副甲状腺細胞に対するアデノウイルスを用いた遺伝子導入では,予備実験として,ヒト手術摘出副甲状腺の初代培養細胞に対してb-galactosidaseを発現するウイルスを48時間感染させ,遺伝子導入効率を検討した.ウイルス感染そのものでは,細胞増殖,PTHの分泌能がに影響はなかった.さらに,ラットの手術的に露出した副甲状腺に直接注入した後,副甲状腺を摘出して切片を作成し,X-gal染色を行い,遺伝子が導入されたことを確認した. 次にCOS-TCP法を用いて,VDR遺伝子をGCT promoterによって発現する組み換えアデノウイルスを作成した.初代培養ヒト副甲状腺細胞に対して,VDRを発現するアデノウイルスを感染させたところ,48時間後のPTH分泌が有意に抑制された.この抑制は,培養液中に存在する正常の1/10の濃度の1,25(OH)2D3が,VDRを過剰発現する副甲状腺細胞に作用したものと考えられた.現在,in vivoでの機能遺伝子導入を行うために,腎不全ラットの腫大副甲状腺とヌードマウスに移植したヒト副甲状腺に対するウイルス液の直接注入を検討中である.
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