神経細胞の移動と配置に着目した、in vivo大脳皮質形成過程における電離放射線影響の解析についての成果を以下に示す。 マウスにおいて大脳皮質神経細胞の生み出される時期のほぼ真中に当たる妊娠14日目の母マウスの腹腔にbromodeoxyuridine (BrdU)を注射し、標識1時間後に0.1Gy、 0.25Gy、 0.5Gy、 1.0GyのX線を単回照射し、照射後3日(胎齢17日)、生後2週、3週、8週齢において灌流固定ののち脳を採取した。4ミクロンパラフィン切片を作製し、脱パラフィン後、抗BrdU抗体による免疫組織化学を施行した。 細胞核の標識された細胞(以下、標識細胞と略す)は、BrdU標識日である胎齢14日に生み出された神経細胞とみなすことができる。ただし内皮細胞にも標識がみられるがそれらは測定より除外した。標識細胞の大脳皮質における分布を発生期においては母細胞層、移動層、皮質板に区分し、生後の大脳皮質においてはII〜VI層に区分して各層における標識細胞数を計測した。各層ごとの標識細胞の標識細胞全体に占める割合を%で表示し、統計学的解析に供した。また単位面積当たりの標識細胞数を算出しその経時的推移を調べた。その結果、胎齢17日では母細胞層から皮質板への標識細胞の移動が0.25Gy以上の照射により遅延した。出生後の大脳皮質細胞構築を追跡すると、照射群では生後1週、2週、3週の時点で大脳皮質における標識細胞分布に明らかな乱れが出現し生後8週の時点でも0.25Gy以上の照射群の一部には構築の乱れが残った。この間、すなわち生後3週齢と8週齢の時点で単位面積当たりの標識細胞密度を比較すると、後者において減少がみられた。さらに興味深いことは皮質細胞構築の乱れが8週齢においては3週齢や2週齢よりも軽減される傾向を示したことであった。これらをあわせて考察すると、本来存在すべき位置にない皮質神経細胞に細胞死(アポトーシス)が起こったのではないかと推察された。
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