肝移植における致死的合併症である肝動脈血栓症を防ぐ目的で、臨床および実験的肝移植術中術後における凝固線溶系因子および抗凝固系因子の変動について検討を行った。その結果thrombin-antithrombin III complexは術中から術直後にかけて著明に上昇し、術後7日目までに徐々に低下すること、またplasmin-α 2 plasmin inhibitor complexは術中に軽度に上昇した後低下し、術後7日から14日にかけて徐々に上昇すること、またantithrombin IIIは術中術後低下し、術後14日目までに徐々に正常化することが明らかとなった。以上の結果に基づいて、術後7日までに抗血栓療法をとくに集中的に行い、以降はその程度を弱めていくことで血栓症予防が可能と考えられた。 信州大学ではこれまでに生体部分肝移植を83例の症例に行ってきたが、上記の知見に基づいてheparin、prostaglandin E1、antithrombin III、protease inhibitorおよび新鮮凍結血漿の投与を行った。検討の結果、各薬剤の投与量は、heparin:50units/kg/day、prostglandin E1:0.01^〜0.03 μg/kg/min、antithrombin III:(100-antithrombin activity(%))×body weight(kg)、gabexatemesilate:1-2mg/kg/hrである。全例を通じて肝動脈血栓症の発生はなく、これは欧米における生体部分肝移植での肝動脈血栓症の発生率20^〜30%に比べても極めて良好であるとともに、87%という良好な患者生存率を実現してきた。 以上のように、今回の研究における結果および知見は、直ちに臨床での有用性につながったものと考えられる。
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