研究概要 |
研究実施計画とその実施 1. 膵癌切除標本約100例をparaffin包理保存し、これより、切片を作成し、キシレンを用いて脱パラを行い、フェノール抽出法にてゲノムDNAを分離しえた。さらに、各種癌遺伝子および癌抑制遺伝子のプライマーを用いて、RT-PCR法により、これら遺伝子を増幅濃縮後、-80℃にて冷凍保存した。現在、増幅遺伝子に対するprobeを用いて、dot blotting hybridization法やSSPC、またはdirect sequence法などにより、Ki-ras、p53などの癌遺伝子や癌抑制遺伝子の変異、Thymidine phosphorylase(TdRTase)などのDNA合成関連酵素の活性などを検索した。 2. paraffin包理標本よりスライドガラス上に切片を作製し、各種の癌遺伝子や癌抑制遺伝子蛋白、また各種の細胞増殖因子に対するモノクローナル抗体を用いてこれらの発現を、strepto-avidin-biotin法により免疫組織染色を行った。 3. 以上の結果をコンピューターを用いて統計学的に解析して、膵癌患者の予後に及ぼす意義を検討した。 研究結果 1. Ki-rasおよびその機能蛋白p21に関しては、膵癌ではGAT変異が最も頻度が高い異常であったが、これらと予後との関連はなかった。しかし、double mutationのある場合は予後不良であった。 2. fibronectinなどの接着因子は、膵癌の進展にともない様々な変化が見られ、一定の傾向はなかった。 3. p53蛋白の発現は膵癌では有意の予後不良因子であった。 4. EGFおよびEGF-receptorの同時発現も膵癌の予後不良因子であった。 5. TdRTaseの発現は膵癌患者の予後とは直接関連していなかったが、原発巣と転移巣とで発現の程度異なり、転移巣での活性が低く、原発巣と転移巣とでDNA合成の経路が異なることが推測された。この所見は膵癌の化学療法に対する抵抗性の1因と考えられた。 以上,これらの分子生物学的因子を臨床病期分類の中に組み入れることでより正確な病期分類が可能となると考えられた。
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