乳癌においてホルモン依存性増殖のkeyは乳癌組織内のestrogen receptor (ER)であり、最近ではER遺伝子そのものが晩発性家族性乳癌の原因遺伝子である可能性が報告されている。 (1)家族性乳癌患者におけるER遺伝子連鎖の可能性: 本邦の乳癌患者を多発する4家系において、ER遺伝子の連鎖をERの複数のmarkerにて検討し、BRCA1およびBRCA2の連鎖解析と比較検討した。その結果ではBRCA1および2に連鎖せず、ER遺伝子の連鎖がみとめられる可能性のある家系が発見できた。しかしながら、この家系の乳癌患者のER遺伝子の生殖細胞レベルでの異常は認められなかった。 (2)ER遺伝子の多型と乳癌感受性: ER遺伝子の変異検索から、Codon10とCodon325においてsilent mutationを示す多型を発見した。特にCodon325におけるCCC (Proline)からCCG (Proline)へのsequence variantの出現は乳癌患者に比べて非乳癌患者に多く、またER陽性乳癌よりも陰性乳癌に多く認められる傾向にあった。Codon325のvariant出現は乳癌の高危険群に共通するER遺伝子の表現型である可能性があり、現在さらに多くの症例で解析中である。 (3)散発性乳癌におけるBRCA1およびBRCA2遺伝子のLOH : 研究(1)の過程で、約130例の散発性乳癌におけるBRCA1/2遺伝子のLOHについても検討した。BRCA1とBRCA2ともLOHは欧米の報告と比較してやや低い頻度であった。BRCA1とBRCA2のLOHが相関して起こっていたこと、BRCA1のLOHはhistological gradeと相関していたこと、欧米との比較では対象とした症例の進行度に若干の差が認められたことから、17qと13qのヘテロ接合性の消失は乳癌の増殖・進展に関与しており、進行度診断として有用である可能性が認められた。現在、乳癌患者集積家系においてこれらのLOHの頻度を検索中である。
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