研究概要 |
本研究はヒト食道癌における遺伝子変化の解明を目的とし、H9年度は食道癌発生の危険因子として疫学的に報告されているタバコ・アルコールの代謝酵素遺伝子の多型を健常人と食道癌患者群とで比較し、遺伝子診断ならびに治療方針の一助とすることを目的として研究を進めた。タバコの煙中の発癌物質およびアルコールの代謝に関与するCYPIA1,GSTM1,CYPIIE1,ADH2,ALDH2の遺伝子多型を当科の食道癌患者94名(組織型はすべて扁平上皮癌)の手術切除標本および健康対照者70名の末梢白血球より抽出したDNAを用いてPCR法,PCR-RFLP法,PCR-SSCP法にて調べた。CYP1A1,GSTM1,CYP2E1の多型については対照群と患者群との間に有意差はなかった。ADH2genotype(ADH2^1/2^1,2^1/2^2,2^2/2^2)の出現頻度は対照群ではそれぞれ5例(7%),19例(27%),46例(66%)に対し、患者群では21例(22%),33例(35%),40例(43%)とADH2^1/2^1genotypeの出現頻度が有意に高かった(p<0.01)。またALDH2 genotypeの出現頻度においても対照群でALDH2^1/2^129例(41%),ALDH2^1/2^236例(52%),ALDH2^2/2^25例(7%)に対し、患者群では20例(22%),70例(75%),3例(3%)でALDH2^1/2^2genotypeの頻度が有意に高かった(p<0.01)。ADH2^2/2^2かつALDH2^1/2^1genotypeを基準にするとADH2^1/2^1かつALDH2^1/2^2genotypeの人の食道癌に対するOdds ratioは17.5と極めて高かった(p<0.01)。以上よりヒト食道癌発癌感受性に関し、アルコールの代謝に関与するADH2とALDH2遺伝子の多型性が関連することが示唆された。
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