本研究はヒト食道癌における遺伝子変化の解明を目的とし、H9年度は食道癌発生の危険因子として疫学的に報告されているタバコ・アルコールの代謝酵素遺伝子の多型を健常人と食道癌患者群とで比較して遺伝子診断ならびに治療方針の一助とすることを目的として研究を進め、ヒト食道癌発癌感受性に関し、アルコールの代謝に関与するADH2とALDH2遺伝子の多型性が関連することを見いだした。H10年度はH9年度に有意な結果を見いだした流れから、TNF-αの遺伝子多型と食道癌感受性について研究した。これまでにTNF-αのプロモーター領域のcodon-238の多型がアルコール性肝障害と関連性があることが報告されており、アルコールとの関連があると思われる食道癌についてもTNF-αの遺伝子多型との関連が考えられたからである。また同じサイトカインであるIL-1α、IL-1β、IL-1RA(Receptor antagonist)の遺伝子多型と食道癌感受性についても検討した。しかしながら、欧米人(白人)で認めるTNF-αのプロモーター領域のcodon-238の多型は日本人ではみな、Nco IによるRFLPでもMsp IによるRFLPでも切断されないタイプのhomozygoteであり、比較検討することができなかった。またIL-1α、IL-1β、IL-1RA遺伝子の多型を健常人と食道癌患者群とで比較し、これは欧米人同様の多型分布を認めたが、両者の間に有意な分布差を認めなかった。 以上よりアルコール性肝障害と関連性があるTNF-αの遺伝子多型ならびに同じサイトカインであるIL-1α、IL-1β、IL-1RA遺伝子の多型は、ヒト食道癌発癌感受性に関し、有意な関連を認めないことが示唆された。
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