研究概要 |
本研究はヒト食道癌における遺伝子変化の解明を目的とし、H8年度は癌抑制遺伝子p53およびマイクロサテライトマーカー,TGF-β RII遺伝子の異常を食道癌組織より抽出したDNAで比較して食道癌のHeterogeneityを調べ、H9年度は食道癌発生の疫学的危険因子とされているタバコ・アルコールの代謝酵素遺伝子の多型を健常人と食道癌患者群とで比較し、H10年度はTNF-αを含むサイトカインの遺伝子多型と食道癌感受性について研究した。 リンパ節転移を伴う食道扁平上皮癌24例中8例(33%)で原発巣と転移リンパ節でRERのパターンが異なったが、その8例すべてでp53の点突然変異ならびに欠失は原発巣と転移リンパ節で同じパターンであった。TGF-β RIIの異常は1例も認めず、以上より食道癌におけるmolecular clonal heterogeneityが示された。タバコの煙中の発癌物質の代謝に関与するCYP1A1,GSTM1,CYP2E1の多型については対照群と患者群との間に有意差はなく、アルコールの代謝に関与するADH2,ALDH2の遺伝子多型において、患者群でADH21/21 genotypeおよびALDH21/22 genotypeが有意に多く、そのgenotypeの人の食道癌に対するOdds ratioは有意に極めて高かった。アルコール性肝障害と関連性があるTNF-αの遺伝子多型ならびに同じようなサイト力インであるIL-1α、IL-1β、IL-1RA遺伝子の多型は、対照群と患者群との間に有意差はなかった。 以上3年間の研究で、ヒト食道癌発癌感受性に関し、アルコールの代謝に関与する,ADH2とALDH2遺伝子の多型性が関連するという有意な一知見を得た。
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