研究概要 |
【目的】ミトコンドリアには核に存在する遺伝子とは異なる固有の環状遺伝子(mtDNA)が存在し、そのサイズは16,569塩基対である。mtDNAは、ミトコンドリア呼吸鎖を構成する酵素のごく一部のサブユニットのみをコードしており、他の多くのミトコンドリアタンパクは核の遺伝子にコードされている。従って、ミトコンドリアが複製されるためには、mtDNAの複製と、mtDNAおよび核の遺伝子にコードされているミトコンドリアタンパクの協調発現が必要である。これまでに明らかにされたmtDNAの複製と転写の調節因子には、nuclear respiratory factor1 (NRF-1)、mitochondrial transcription factor A (mtTFA)、およびribonuclease for mitochondrial RNA processing (RNaseMRP)があり、これらはいずれも核遺伝子によってコードされている。 本研究では、ヒト肝組織におけるmtDNAの複製と転写の調節因子(NRF-1、mtTFA)の発現に対する肝硬変の影響を調べ、mtDNAの複製と転写に及ぼす肝硬変の影響を検討した。 【方法】正常肝、慢性肝炎肝および硬変肝の採取を、名古屋大学医学部付属病院において行なわれる肝切除手術時に行った。採取した肝臓の一部は、速やかに液体窒素中で凍結し、分析まで-80℃にて保存した。ヒトNRF-1とmtTFAのmRNAをRT-PCR法によって定量した。 【成績】慢性肝炎肝ではいずれのmRNAの発現も正常肝に比べて有意に増大(NRF-1,150%,mtTFA,250%)したが、硬変肝でのそれぞれの発現は正常肝レベルと変わらなかった。 【結論】肝炎の進行に伴いミトコンドリア遺伝子の発現は増大し、さらに病態が進み肝硬変に至るとその発現が正常レベルに戻る可能性が示唆された。
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