研究概要 |
1)家族性大腸腺腫症(FAP)における癌化とテロメラーゼ活性の関係:FAPは常染色体優性遺伝性疾患で,20〜30代で高率に癌化する.手術は20〜30代に行われるが,どの時点で手術を行うかは議論が多い.6例のFAPに対し大腸切除術を行い,標本の癌,腺腫,正常粘膜のテロメラーゼ活性を測定,FAPにおける癌化とテロメラーゼ活性の関係,手術時期に関して検討した.結果:3例に複数個の進行癌を認め,癌,腺腫,正常大腸粘膜の全てのテロメラーゼ活性が陽性であった.他の3例では癌化を認めず(1例でcancer in adenoma),この3例では腺腫,正常大腸粘膜の全てにテロメラーゼ活性は陰性であった。同時期に手術した大腸癌28例の癌,腺腫,正常粘膜のテロメラーゼ活性発現率は24/28(85.7%),3/8(37.5%),3/28(10.7%)であった.考察:大腸癌では,正常粘膜のテロメラーゼ活性発現率は10%程度で,FAPでは癌化した時期には正常大腸粘膜でも100%にテロメラーゼ活性が認められ,癌化へと向かう遺伝子異常が全大腸粘膜で起こっている可能性があり,予防的大腸切除の観点から,腺腫のテロメラーゼ活性が陰性の時期の手術が理想的と考えられた.本研究は第97回日本外科学会総会(京都)に発表の予定である. 2)単発,多発大腸癌,腺腫におけるテロメラーゼ活性と遺伝子不安定性(GER)の関連:単発大腸癌のテロメラーゼ活性とGERの発現頻度は,9/10(90%),3/10(30%)で,多発・重複大腸癌では10/10(100%),7/10(70%)であり,テロメラーゼ活性は両者で差はないが,GERの発現頻度は多発・重複大腸癌で高率であった.大腸腺腫8例でGERは4/8(50%)に認められ,腺腫におけるテロメラーゼ活性と遺伝子不安定性の関連をより明らかにしていく必要がある. 3)食道癌におけるテロメラーゼ活性と遺伝子不安定性(GER)の関連:単発食道癌では9/15(60%)にGER,LOHが認められ,多発・重複食道癌では5/5(100%)にGER,LOHが認められた.これらの症例に対して今後テロメラーゼ活性を測定していく.
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