研究概要 |
平成9年度の研究成果として以下の点が上げられた. 1.ヒト胃癌細胞(HSC-39,MKN-28,KATO-III,MKN-45,MKN-74)をcisplatin(CDDP)1μg/mlと接触させアポトーシスを誘導した.p53遺伝子に変異が無く,Bcl-2蛋白発現陰性株(MKN-45,MKN-74)で高率にアポトーシスの発現が認められた.一方,P53 mutationや欠損が有り,Bcl-2発現陽性の(KATO-III,HSC-39,MKN-28)ではアポトーシス誘導は低率であった.アポトーシス関連蛋白であるP53,Bcl-2の経時的な変化を検討した.wild-type p53蛋白を発現するMKN-74ではCDDP添加後経時的にp53蛋白発現は増加し,Bcl-2発現が陽性であったKATO-IIIでは,Bcl-2発現はCDDP添加後経時的に減少し,逆にアポトーシス誘導率は上昇した.この結果はIkeguchi M,et al."Changesin levels of expression of p53 and the product of the bcl-2 in lines of gastriccancer cells during cisplatin-induced apoptosis" Eur Surg Res 29:396-402,1997に掲載された. 2.家族性大腸腺腫症(FAP)の癌化とテロメラーゼ活性の関係を大腸切除術が施行された6例のFAP症例で検討した.複数個の進行癌を認めた3例では癌,腺腫,正常粘膜のテロメラーゼ活性全てに陽性で,癌化を認めなかった3例では腺腫,正常大腸粘膜の全てにテロメラーゼ活性は陰性であった.この結果,癌化を伴うFAPではテロメラーゼはすでに全大腸粘膜で活性化されている可能性が示唆された.FAPは高い癌化率を示し,癌発生前の早期外科治療が重要で,どの時点で手術を行うかの判断基準にテロメラーゼ活性測定が有効であることが示唆された.この結果は池口正英,貝原信明「家族性大腸腺腫症におけるテロメラーゼ活性」消化器癌の発生と進展9:85-88,1997に掲載された. 3.術前無治療の食道癌手術症例52例の癌巣,正常食道粘膜のテロメラーゼ活性を測定し,臨床病理と比較した.テロメラーゼ活性は癌巣で41/52(79%),非癌部正常粘膜でも高率(46/52,89%)に認められた.有意の差ではないがテロメラーゼ活性陰性例は,外膜浸潤陽性でStage III,IVの進行した症例が多く,3生率も陽性例に比べて不良であった.この結果は「日本臨床」に掲載の予定である.
|