研究概要 |
1) 家族性大腸腺腫症(FAP)は常染色体優性遺伝性疾患で,放置すればほぼ全例で癌化する.その発癌過程やどの時点で手術を行うかは議論が多い.4年間で8例に大腸切除術を行い,切除標本の癌,腺腫のテロメラーゼ活性をTRAP法で測定し,p53のexon5-8における突然変異をPCR-SSCP法にて解析し,FAPにおけるテロメラーゼ活性発現とp53遺伝子突然変異との関連を検討した.同時期に手術を施行した大腸癌68例,大腸腺腫19例のテロメラーゼ活性を測定し,FAPと比較検討した.FAP8例中5例に複数個の癌を認め,この5例では癌,腺腫の全てでテロメラーゼ活性が陽性であった.他の3例では癌化を認めず,3例の腺腫のテロメラーゼ活性は陰性であった.一方,大腸癌でのテロメラーゼ活性陽性率は,51/68(75%)で,腺腫では6/19(32%)であった.腺腫のうち,癌と併存した腺腫11例では5例(45%)にテロメラーゼ活性が認められたのに対し,腺腫単独で存在した8例ではテロメラーゼ活性は1例(13%)に認められたのみであった.また,腺腫の大きさや異型度とテロメラーゼ活性の有無に関連性は認められなかった.FAP症例におけるp53遺伝子点突然変異は,複数個の進行癌癌を認めた2例の癌組織にのみ認められた.1例はexon 5のmutationであり,他の1例はexon 8のmutationであった.即ち,FAPではテロメラーゼは癌化のごく初期より活性化され,テロメラーゼの活性化はp53遺伝子異常より先行して起こること,また,FAPでは腺腫が癌化する時期には,小さな腺腫もでテロメラーゼ活性は陽性となり,この傾向は大腸癌に併存した腺腫でも認められた.FAPでは癌化へ向かう遺伝子異常は全腺腫で起こる可能性が推察され,予防的大腸切除の観点から,腺腫のテロメラーゼ活性陰性の時期での手術が理想的と考えられた. 2) 術前無治療の食道癌手術症例52例の癌巣,正常食道粘膜のテロメラーゼ活性を測定し,臨床病理と比較した.テロメラーゼ活性は癌巣で41/52(79%),非癌部正常粘膜でも高率(46/52,89%)に認められた.また,非坦癌患者の食道biopsy sampleのテロメラーゼ活性も8/11(73%)に認められた.食道上皮において,テロメラーゼは基底細胞層の増殖細胞で強く活性化され,正常食道粘膜でも強い活性が認められるため,テロメラーゼ活性は食道癌と非癌の判定に有効ではないと考えられた.
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