研究概要 |
切除肝癌38例において,アポトーシス関連物質であるFas,FasLの発現を凍結切片での免疫染色およびRT-PCRにより検討し,宿主免疫反応からの回避機構が肝癌の発生・進展におよぼす影響について,臨床病理学的因子との関連を検討した.in vitroではp53がFasの誘導因子であるとされているが,肝癌においてもp53がFasの誘導因子であるかを検討した.肝癌でのFas,FasLの陽性例は,各11例,18例であり,両者の発現には逆相関を認めた(p<0.05).TUNEL法によりアポトーシスを検討したところ,Fas陽性例でアポトーシスが多く見られた(p<0.01).肝内転移については,imは7例に認められ,全例Fas陰性であった(p<0.1).再発率では,Fas陽性例で再発率は低く(p<0.05),FasL陽性例で高い傾向にあった(p<0.1).p53とFas発現では,逆相関を認めた(p<0.01)が,両者ともに陰性も14例に認めた.健康人に比べ肝癌患者で血中sFasは高く(p<0.01)、sFasLは低値(P<0.05)を示したが,ともに臨床病理学的因子や肝癌でのFas,FasL発現との間には相関はなかった.RT-PCR,ELISA,免疫染色の結果より,肝癌細胞より浸潤リンパ球・非癌部肝組織がsFasを産生しているものと思われた.従って,肝癌はFas発現を減弱させるとともに,周囲組織にsFasを産生させることにより宿主の免疫機構より逃れているものと考えられた.特に,肝癌細胞は,Fas発現減弱によりFasL陽性の浸潤リンパ球によるアポトーシスシグナルから逃れ,肝内転移するものと思われた.また,Fasの発現にはp53活性が重要であるが,他の因子がさらに関与していると思われ,この因子の解明が今後の重要課題であると思われた.
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