研究概要 |
われわれは、癌の浸潤、転移と深く関連するといわれているvariant exon6を含むCD44変異体mRNA(以下、v6)の発現をRT-PCR/Southern blot法を用い、胃癌において検討してきた。これまでに当科で切除した胃癌症例のうち予後が確認できた73例の新鮮凍結標本を対象にv6発現量を臨床病理学的に検討したが、v6発現量はリンパ節転移および肝転移と相関していた。また、再発例、特に血行性転移例で増加し、高発現群の予後は不良であり、v6発現の予後因子としての有用性が示された(Biotherapy,11(5):615-616,1997)。本年度(平成9年度)においてはCD44 standard form(以下、CD44s)やvariant exon9を含むCD44変異体mRNA(以下、v9)についても検討を行った。CD44s発現は腹膜播種性転移症例で有意に増加していた。腹膜播種モデルにおけるスキルス胃癌細胞の腹膜への接着にCD44sが関与するという報告(Nishimura et al.,Jpn J Cancer Res,87:1235-1244,1996)もあり、これを臨床例で裏付ける結果となった。今後、スキルス胃癌におけるCD44s発現の検討を進めたい。なお、v9発現については残念ながら臨床病理学的な有意差は得られなかった。次に、生検材料におけるv6発現が手術標本の発現を反映することを前年度でも報告を行ったが、本年度は、症例を増やし、予後因子として術前の評価に利用できることを発表した(日消外会誌30(4):886-890,1997;Progress in Gastric Cancer Research1997,1(2):pp.409-413,1997)。さらに、方法論として、RIを用いない簡便な測定方法も検討しており(第35回、日本癌治療学会総会で発表)、今後さらなる検討を続ける予定である。prospective studyとしての予後調査も追跡中であるがまだ結果を得る段階には至っていない。 上記研究と同時に高転移胃癌細胞株の樹立を目指し、手術標本から採取した癌細胞の樹立を行い、マウスへの移植を続けているが、技術的な問題により現在のところまでマウスに生着する段階に至っていない。そこで、高転移細胞株を入手し、転移モデルの作成を行なうことにより、技術的な問題を克服できるように努力している。
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