本研究は、自然心臓を切除せずに人工心臓を装着したハイブリッド型の完全人工心臓循環慢性動物実験モデルを用いて、人工心臓に自動制御(1/R制御)をかけた場合の自然心臓拍動の反応から生体の循環系制御ロジックを解明することを目的とする.ハイブリッド型の完全人工心臓循環慢性動物実験モデルを確立するために、現在までに、3頭のヤギを用いた慢性動物実験を行った.人工心臓としては、サック容量60mlの空気圧駆動式の血液ポンプを用いた.まずは、心房心室脱血による完全脱血タイプの両心バイパスを作製した.しかし、この方法では、不整脈を誘発しやすいという問題が生じた.次に、心房脱血による両心バイパスを装着し、上行大動脈および肺動脈基部をクセンプすることにより、完全両心バイパスを作製した.このモデルでは、冠動脈のみが自然心臓により潅流される.しかし、この方法では、自然心臓は頻脈傾向を示し、正常な反応が得られない可能性が示唆された.そこで、同様に心房脱血による両心バイパスを装着し、肺動脈のみをクランプして、右心を完全人工心臓循環とし、左心は上行大動脈を狭窄させて、1〜2割程度自然心臓の拍出量を残した人工心臓循環を作製した.このモデルでは、右人工心臓により心拍出量は完全に制御できるために、制御の視点から見れば、完全人工心臓循環と同義と見なせる.このモデルを使用し、右人工心臓の拍出量を心拍出量の代用として制御関数に入力し、現在まで2ヶ月以上1/R制御を続けているが、左人工心臓の拍出量で1/R制御をかけた場合と同様な反応が得られ、制御の発散も見られず、かつ自然心臓拍動も安定して計測できるため、このモデルが実験モデルとして適当であることが分かった.現在、このモデルを用いて、薬剤投与実験などの研究を行っており、圧受容体反射などに関する興味深い知見が得られ始めている.
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