本研究は、完全人工心臓の生理的制御(1/R制御)という観点からアプローチして、循環系の制御ロジックを解明することを目的とした.その方法として、自然心臓のレスポンスと1/R制御下の人工心臓のレスポンスを同時比較できる慢性動物実験モデルとしてのハイブリッド型完全人工心臓循環を考えた.この方法では、自然心臓を切除せずに拍動を残したまま人工心臓を装着し、心拍出量は人工心臓で完全に制御することにして、同時に自然心臓の拍動を観察し、人工心臓に1/R制御をかけることにより、心拍変動のレスポンスと1/R制御のレスポンスを同時比較検討できる.ヤギを用いた実験の結果、人工心臓の拍動数と自然心臓の心拍数の絶対値が同じとなることはあまりなく、両者は独立のリズムを持って変動しており、両者の変動にはベースラインのシフトが見られた.これは、自然心臓の心拍数が本来の心拍出量調節システムから切り離され、フィードバックループを作っていないことに起因すると考えられた.そこで、ローカットフィルターを用いて両者の変動成分のみを抽出し、比較検討を行った.その結果、人工心臓の拍動数と自然心臓の心拍数の変動のレスポンスは、非常に似ていることがわかった.このことは、1/R制御が自然心臓の制御レスポンスを実現していることを証明する根拠となるが、さらに、1/R制御における理想的な制御関数を求めてみると、計測した実験条件(日常活動時)においては、オリジナルの1/R制御関数でよいということがわかった.このことは、日常活動時においては、1/R制御関数自体が自然心臓の制御ロジックの近似式となっていることを表す.以上、ハイブリッド型完全人工心臓循環を用いた研究により、1/R制御関数は、それ自体が自然心臓の制御ロジックを表現する近似式であることがわかった.今後は、運動時の制御ロジックの解明を行いたい.
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