研究概要 |
低体温保存した同所性移植の保存許容時間は一般に4-5時間とされている.昨年までの研究で,心筋保護液へのヒアルロニダーゼの添加は,心臓リンパを積極的に誘導して心筋浮腫を軽減しグラフトのviabilityを良好に保つことが示された.今年度は,ヒアルロニダーゼ投与方法の影響について心臓リンパの動態,心機能,心筋ATP値,心筋水分含有量を中心に検討した. 右第4肋間開胸下に心臓リンパ節への輸入リンパ管にカニュレーションし,心臓リンパを採取した.体外循環下に30分の常温虚血後,30℃低体温を導入し心停止60分を負荷した.その間心筋保護液として4℃のSt.Thomas Hospital液を2回(1回20ml/kg)順行性および逆行性に投与し,ヒアルロニダーゼ3000U/Lの添加の有無で実験を4群(A(-)群 順行性投与でヒアルロニダーゼ非添加,A(+)群:順行性投与でヒアルロニダーゼ添加,R(-)群:逆行性投与でヒアルロニダーゼ非添加,R(+)群:逆行性投与でヒアルロニダーゼ添加,nはそれぞれ5)に分けた.大動脈遮断解除後心拍再開後の平均のリンパ流量を,大動脈遮断前の平均のリンパ流量に対する比率(%)で比較すると,A(-)群165%,A(+)群580%,R(-)群146%,R(+)群372%と順行性逆行性投与ともにヒアルロニダーゼの添加によりリンパ流量は増加した.回復率で比較した心拍出量(A(-)群74%,A(+)群112%,R(-)群56%,R(+)群88%),心筋ATP値(A(-)群51%,A(+)群89%,R(-)群40%,R(+)群81%)は順行性逆行性投与ともにヒアルロニダーゼの添加で良好に保たれた.左室心筋水分含有量はA(-)群80.5%,A(+)群78.9%,R(-)群81.0%,R(+)群80.0%と順行性逆行性投与ともにヒアルロニダーゼの添加で有意に低下したが,中隔(A(-)群80.6%,A(+)群79,6%,R(-)群81.5%,R(+)群81.3%),右室(A(-)群80.0%,A(+)群78,8%,R(-)群81.9%,R(+)群81.0%)の心筋水分含有量は順行性投与ではヒアルロニダーゼの添加で低下したが、逆行性投与では差は認められなかった. 逆行性冠潅流法では中隔・右室の潅流が不十分となることが示唆されたが,心筋保護液へのヒアルロニダーゼの添加により,グラフトのviabilityは良好に保たれた.来年度以降はこの成績をもとに同所性心移植心で今回成績を検討する.
|