研究概要 |
今年度は,実際に同所性心移植での成績を検討した. ビーグル成犬(体重7.0-11.8kg)10組の同所性心移植を行ない,冠灌流液組成の差で2群に分けた.C群(n=5)は,4℃St.Thomas′II液単独で,H群(n=5)では,3000U/Lのヒアルロニダーゼを混合した.右第4肋間開胸で心臓に到達した.全身へヘパリンを投与後,上下大静脈から急速に脱血し,心停止させ,in situで30分間放置した.順行性に冠灌流した後,4℃生理食塩水へ浸漬,3時間保存した. Shumway変法で移植した。ドナーおよびレシピエントの体重および移植前の血行動態は,群間で有意差を認めなかった.移植後,両群ともすべて,体外循環を離脱した.体外循環離脱2時間後の左室圧(LVP),左室圧一次微分(LV dP/dt),心拍出量(CO)で群間に有意差を認め,H群で良好であった.また,COは離脱直後からH群はC群に比べ良好な値で推移した.冠再灌流開始から大動脈冠静脈血乳酸値較差消失まではH群で短く,好気性代謝へ速やかに移行する傾向であった.離脱2時間後の心筋内ATP値(μmol/g)はH群で有意に高値で(C群:4.2±1.2,H群:7.7±2.5,p=0.025),心筋水分含有量(%)は有意に低値であった(C群:81.7±0.7,H群:80.0±1.1,p=0.022).病理学的には,H群で組織間質間隙の開大が比較的軽度で,組織像をデジタル処理した間質面積比(%)を比較すると,有意に小であった(C群:24±10,H群:12±7). 実際の同所性移植でも,ヒアルロニダーゼの有効性は示された.組織浮腫軽減効果は移植後早期から顕著で,高度な虚血後でもグラフト心機能は保たれた.虚血再灌流時の臓器微小循環の維持のため組織浮腫軽減を促す方策は重要であり,臨床への応用が期待された.
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