研究概要 |
胸腹部大動脈瘤術における問題点の一つは再建を要する主要分枝の血遮断による肝腎の臓器障害の合併である.この様な臨床例において我々は,術中に選択的臓器灌流を行うことにより虚血予防策を図っている.しかしその灌流量・灌流圧・灌流時間を含めた至適灌流条件に関しては未だ明確でない.今回我々は腎臓に関して至適灌流条件を確立すべく実験を行った.実験動物として雑種成犬(体重14〜22kg)を用いた.麻酔は塩酸ケタミンを筋注,ペントバルビタールナトリウムを静注し5mg/kg/hrにて維持した.実験犬の循環動態,全身状態を把握するためにECG,動脈圧,中心静脈圧(ベッドサイドモニターBSM-8302),心拍出量,肺動脈楔入圧,尿量をモニターした.開腹後腎動脈の血流量を電磁血流計(メラ・HFV-3200)を用いて計測し,左大腿動脈より選択的に腎動脈にカニューレを留置した.右大腿動脈より脱血し,モジューラ型ポンプ(メラ・HAD-11)を用いて実験側腎動脈に2時間選択的灌流を行った.選択的灌流量を正常腎血流量の10%,50%に規定し,2時間の灌流後,さらに2時間の再灌流を行い腎臓のviabilityの判定を行った.viabilityの判定は腎組織のATP,無機燐,乳酸を計測し,また腎の組織学的検討も併せて行い,対側腎をコントロールとした. 結果:10%に規定した場合のATP値はコントロール群と比較して有意にATP量の低下がみられた.再灌流後の比較でも灌流群では有意に低値であった.無機燐値と乳酸値は選択的灌流後に両群間に有意差は認めたが再灌流後は有意差はなかった.組織学的には尿細管上皮の壊死や核の消失,また糸球体にもメサンギウム細胞の増加が著明であった.50%に規定した場合には選択的灌流後及び再灌流後にもATP値,無機燐値,乳酸値は両群間に有意差は認めなかった.組織学的にも基底膜から上皮の剥離は見られるものの糸球体の変化は認めなかった.現在実験を継続中である。
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