研究概要 |
【目的】胸腹部大動脈瘤手術において,腹部分枝血流遮断による臓器障害が問題となることがあり,その予防策として選択的臓器灌流を行っている.しかしその至適灌流条件は明確ではない.腎の至適灌流条件を確立すべく実験を行った.【方法】雑種成犬28頭を使用.腹部正中切開を加え左右の腎臓を露出し,片腎に選択的灌流(SP)を行い,対側腎をコントロール(CR)とした.SP法は,右大腿動脈より脱血しローラーポンプで腎動脈に留置したカニューレに2時間のSPを行った.腎動脈の血流量を電磁流量計で測定し,灌流量により以下の4群に大別.I群:正常腎血流量の10%のSP.II群:25%.III群:50%.IV群:100%.SP後に実験腎とコントロール腎のATP,無機燐,乳酸を計測しviabilityを判定した.さらに2時間の再灌流(RP)後にもviabilityを判定した.組織学的検討も行った.【結果】SP後のATP(μmol/g dry wt)は,I群:1.86±0.55,II群:4.00±0.66,III群:5.25±1.67,IV群:4.74±3.01であり,CRの6.63±0.33と比較してI群とII群で有意に低下したが,RP後にはII群では再上昇した.無機燐はSP後にI群とII群で有意に増加したが,RP後には回復した.乳酸はSP後のI群で有意差をみた.組織学的にはI群では尿細管上皮の高度な浮腫と一部壊死を認め,上皮の脱落が著名であった.II群では細胞の浮腫が目立ち,III群では比較的形態は保たれていた.IV群ではSP時の腎動脈圧が195〜235torrと高く,組織学的にも糸球体に炎症細胞の浸潤が見られた.【結論】エネルギー代謝,組織学的にみて,10%のフローは灌流不足であり,25%は再灌流後に回復した.100%では灌流中の腎動脈圧が高く,組織学的に糸球体の損傷を認めた.50%では腎機能の温存は良好であった.
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