研究概要 |
本科研費による研究の第一の目標は、「定量的評価可能な蝸牛神経損傷モデル」を、経済的にも実験操作上も多数例を扱うことが容易な小動物(ラット)において,完成させることであったが、その目標は達成され、その成果を国内外の諸学会にて発表することができた。特に、本研究成果に対して、世界脳神経外科学会賞(The Volvo Award for Central Nervous System Injury Research)(第11回世界脳神経外科学会総会、アムステルダム、オランダ、1997年)が授与されたことは、我々の研究成果が世界的な評価を受けたことを示していると言える。その後の我々の研究は、蝸牛神経損傷とそれに引き続いて起こる蝸牛神経変性の病態解析とその防止策の確立に向けて発展している。すなわち、本モデルの確立によって、各種neurotrophinsの蝸牛神経損傷に対する効果などをも客観的に評価検討することができるようになった。現在までに、BDNFとNT3の鍋牛神経変性防止効果について検討を行った。その結果、損傷蝸牛神経のこれらの因子に対する反応は、従来からのin vitroでの実験結果とは一致しないことが判明しつつある。従来から行われていた方法では、蝸牛神経の末梢側processを損傷することによって蝸牛神経変性が作成されてきた。しかし、我々のモデルは、中枢性processが損傷されることによって蝸牛神経変性が引き起こされるという点で全く新しい実験モデルであると言える。これまでの実験結果は、末梢側process損傷モデルによったものであり、我々のin vivoの実験結果との間に見られる相違は、蝸牛神経の損傷部位の相違によるものかもしれない。このように、上記のような研究成果は本科研費によって初めて可能になったものであり、我々の研究は、今後さらに発展する可能性を有している。
|