研究概要 |
実験脳における虚血耐性現象の解明のために,まず再現性の高い虚血耐性モデルの作成の確立を試みた。短時間の虚血負荷の場合,頚動脈の閉塞時間を虚血負荷の指標とすると動物間のバラツキが大きいため,客観的指標として脱分極の持続時間を用いた。 1.砂ネズミ(n=22)において両側海馬のDC potentialを計測しながら様々な時間の両側頚動脈閉塞を行い,1週間後の海馬CAIの神経細胞死の状態を評価した。その結果,CA1神経細胞障害を引き起こす脱分極持続時間の閾値は4〜6.5分で,6.5分以上ではCA1神経細胞の完全な障害が観察された。 2.砂ネズミ(n=47)にDC potential計測下にCA1細胞障害をきたさない範囲の短時間の虚血を加え(1回目の虚血),その2日後同じくDC potential計測下に脱分極持続時間が6.5〜8.5分の虚血(1の結果よりCA1神経細胞に完全な障害を生ずるに十分な虚血)を加え,1週間後の海馬CA1の神経細胞死の状態を評価した。その結果,1回目の虚血の脱分極持続時間が1.5分以上でCA1神経細胞の温存が見られ,その耐性効果は脱分極持続時間が2.5〜3.5分でmaximumであった。しかし,4分以上になると耐性効果の消失が観察されはじめた。 3.2の結果より,1回目の虚血として,DC potential計測下に脱分極持続時間が2.5〜3.5分になるような虚血を加えれば,再現性の極めて高い虚血耐性モデルを砂ネズミにおいて作成できることが明らかになった。 今後は虚血耐性と遺伝子発現の関係を見るために,同じくDC potential計測下に虚血モデルを作成し,様々な遺伝子発現の脱分極持続時間の閾値を測定し,虚血耐性効果を誘導する脱分極持続時間と比較検討する予定である。
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