研究概要 |
ONS-M21マウスモノクローナル抗体(Br J Cancer,1999)が認識するグリオーマ関連抗原はintegrinα3であった。そして、この抗原が脳内で発現されるメカニズムを解明する事は、グリオーマ細胞の浸潤性やその悪性度を調べる上で非常に重要である。一方、脳特異的遺伝子プロモーターを組み込んだレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療の基礎実験では、グリオーマ細胞の約25%に殺細胞遺伝子(HTK)を導入できれば、ガンシクロビル(GCV)の腹腔内投与にて、マウスグリオーマモデルをほぼ全例完治しうることを実証した(Hum Gene Ther,1997;Gene Ther,1998)、そして、レトロウイルスの低感染効率に対しては、Polyoma ori発現遺伝子をパッケージング細胞に導入することで、高力価な脳特異的レトロウイルスベクターを抽出することが可能となった(Hum Gene Ther,1998)。この高力価レトロウイルスベクターを用いたin vivo治療では、グリオーマモデルの80%が完治した(Hum Gene Ther 投稿中)。このように有効なベクターを開発できるようになったが、腫瘍自体にレトロウイルスレセプターを有していなければ治療自体が成り立たない。そこで、このレセプターを有していない腫瘍に対する遺伝子治療法の可能性を追及する目的で、HVJリポソームを用いた脳特異的遺伝子治療法の開発も手掛けている(Gene Ther,1997)。このHVJリポソームにヒト型化抗体を結合することで、よりグリオーマ特異的遺伝子治療法の開発を目指している。このヒト型化抗体(Mol Immunol,1995)やその単鎖抗体(Anticancer Res,1998)をヒト髄芽腫やグリオーマ細胞とin vitroで共存培養すると、20分以内に約20%の抗体が細胞内に取り込まれるので(Cancer lett,1998)、抗体単独による遺伝子導入法や、免疫複合体によるグリオーマ特異的ターゲティング療法への応用も期待された。しかしながら、この抗体を用いてHTK遺伝子を一括で導入するには分子量が大き過ぎるので、非常に実現困難であることが検証され、今のところ目的遺伝子を分割導入する方法を試みている。
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