研究概要 |
我々は脳腫瘍の遺伝子治療を目的として、細胞周期を制御する遺伝子の腫瘍細胞での発現の検討とその遺伝子導入による抗腫瘍効果を研究してきた。平成8年度から平成10年度までに行った研究結果について報告する。 1) 脳腫瘍における癌抑制遺伝子(p53,p16、p21、p27)の異常とその発現の研究 神経膠腫におけるp53,p16,等の遺伝子異常やp53,p16、p21、p27の発現の関係を検討した。p53,p16,等の遺伝子異常は、神経膠腫の発生や悪性化に関与している事を明らかにし、さらにp27、cyclin Eの発現と神経膠腫の予後と強く影響していることを明らかにした。 2) アデノウイルスベクターの脳腫瘍に対する遺伝子導入法の検討 強力なCAGプロモーターを用いたアデノウイルスベクター(AdexCALacG)を作成し、脳腫瘍細胞に対する遺伝子導入をin vitro及びin vivoで検討した。その遺伝子導入効率は非常に高く有用な遺伝子導入法と考えられ、これらのベクターを用いた薬剤感受性遺伝子治療を検討した。 3) p53遺伝子治療の研究 アデノウイルスベクターを用いてp53遺伝子をグリオーマ培養細胞に導入し、温度感受性を検討した結果、p53に変異がみられた細胞に正常p53遺伝子を導入すると腫瘍細胞の温度感受性が明らかに増加することが判明した。さらに、p21、p27の発現の変化についても検討した。 以上の研究結果より、脳腫瘍の発生や悪性化に癌抑制遺伝子や細胞周期関連遺伝子が強く関与していることが明らかとされ、これらの癌抑制遺伝子を利用した脳腫瘍に対する新たな遺伝子治療の可能性を示した。
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