p53蛋白は細胞周期制御作用だけではなく、状態によっては細胞死(アポトーシス)を誘導することが知られている。これは遺伝子損傷を修復しえない場合、細胞死を誘発することによって変異細胞を生体に残存させない自己防御反応と考えることができる。本研究は、p53による細胞周期停止とアポトーシスの二つのシグナルを分岐する細胞内調節機構を明かにすることを目的とした。本年度の成果を要約すると: 1)EBNA-1遺伝子発現細胞株の樹立:本計画において、最大の問題点はいかに効率よくcDNAライブラリーを細胞に導入できるかである。我々が使用するcDNAライブラリーが構築されているpDRベクターは、EBウイルスの複製起点を持っているため、あらかじめ導入する細胞にEBNA-1遺伝子を発現しておくと、高い導入効率を獲得することができる。我々は、U251グリオーマ細胞、SaOS2骨肉腫細胞、ACHN腎癌細胞にEBNA-1遺伝子を導入し、安定発現株を得た。beta-galactosidase発現pDRプラスミドをこれらの細胞に導入したところ、極めて高い導入効率(約20〜30%)を得ることが出来た。 2)上記EBNA-1安定発現株にpDRによって構築したcDNA発現ライブラリー(Hela細胞のcDNAライブラリー)を導入し、その後アデノウイルスにて正常型p53を発現させp53依存性アポトーシスの誘導を行った。アポトーシスを回避した細胞から、pDRプラスミドを回収し、cDNAの配列を決定したところ単一のopen reading frameを持つ新規遺伝子が同定された。この遺伝子は、大腸菌のnucleoside diphosphate kinaseに高い相同性があった。
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