p53蛋白は細胞周期制御作用だけではなく、状況によっては細胞死(アポトーシス)を誘導することが知られている。これは遺伝子損傷を修復しえない場合、細胞死を誘発することによって変異細胞を生体に残存させない自己防御反応と考えることができる。本研究は、p53による細胞周期停止とアポトーシスの二つのシグナルを分岐する細胞内調節機構を明かにすることを目的とした。昨年度までの研究によりEBNA-1遺伝子発現細胞株の樹立ならびにアデノウイルスによるp53発現システムの確立を行った。 本年度の成果を要約すると: 1)Bc1-2遺伝子発現によるp53誘導アポトーシスの阻害:本計画において、新たなp53誘導アポトーシス阻害遺伝子を取得するためには既存のアポトーシス阻害遺伝子によるモデルシステムを確立する必要がある。そこで我々はBc1-2遺伝子をBc1-2発現欠損株KoTCC-1細胞に導入し、p53アデノウイルスによるアポトーシス誘導作用の阻害を観察した。その結果、Bc1-2発現細胞はその発現量に応じて、in vitro、in vivoにおいてp53誘導アポトーシスならびにシスプラチン誘導性のアポトーシスをブロックすることが明かになった。 2)EBNA-1安定発現株にpDRによって構築したcDNA発現ライブラリー(Hela細胞のcDNAライブラリー)を導入し、その後アデノウイルスにて正常型p53を発現させp53依存性アポトーシスの誘導を行った。アポトーシスを回避した細胞から、pDRプラスミドを回収し、cDNAの配列を決定したところ単一のopen reading frameを持つ新規遺伝子が同定された。この遺伝子は、大腸菌のuncleoside diphosphate kinase(NDPK)に高い相同性があった。我々はこの遺伝子にコードされる蛋白に対し抗体を作成し、親株として用いたU251MG細胞ではその発現が極めて低く、この蛋白の発現量とp53誘導アポトーシス阻害の関係が示唆された。
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