我々はパーキンソン病に対する新しい治療法として交感神経節の脳内移植を検討してきた。現在まですでに50例に臨床応用し約5割の症例で効果を認めたが、残りの症例では効果が認められなかった。本研究プロジェクトでは、この無効例を減少させるべく基礎的・臨床的検討をすすめた。基礎的には移植片の生着阻害因子であるfree radicalの生成を抑えて生着率を高める検討を行った。臨床的には予後に影響を与える因子を分析し臨床例での術後成績の向上を図った。(1)基礎的研究 培養交感神経節細胞に膜脂質の酸化阻止剤(U-74389G)をあらかじめ滴与し移植すると、移植片の生着率は著明に向上し、細胞のサイズも増大した。また、6-OHAラットモデルを用いた行動を分析でも、回転行動が有意に減少した。つまり膜脂質の酸化阻止剤で前処置した交感神経節は形態的にも機能的にも移植後宿主脳内でよく生着しその機能を発揮した。(2)臨床的研究 臨床的には移植適応患者はさらに増加し、50症例に達した。このうち50%の患者は移植で症状の改善または投薬量の減少を試みた。手術成績に影響を与える因子としては、罹病期間、術前L-dope量であった。以上の研究結果はfree radicalの生成が移植の生着を阻害していることを示唆している。また臨床面でも症例の増加にともない、手術の効果を予想することが可能となった。
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