研究概要 |
研究材料として、剖検標本(10体分)を採取し、前年度分と併せて計30体分を確保している。当初の検討対象を拡大し、頚椎の椎間板に加え、胸椎椎間板を採取している。頚椎、胸椎それぞれの変性の特徴を知るためと、個体間における椎間板変性の相違を解析する際に、より多くの部位の観察が必要なためである。現在、順次、1体分につき第3頚椎〜第1腰椎の脊椎椎体と17椎間板の標本を作成中である。20体分については組織学的観察を行った。免疫組織学的観察は、染色を同一の条件で行い、同一基準で評価するために、来年度に実施を計画している。 本年度は、胸椎椎間板の変性ならびにヘルニア発生機序を解析して公表した。その概要を述べる。38〜93歳(平均63歳)の20例(男16例、女4例)から採取した240個の椎間板(T1〜L1)を用いた。正中部矢状断のEDTA脱灰HE染色標本を作成し、椎間板変性を4段階に区分するKokubunら(Cartilaginous endplate in cervical disc herniation.Spine 21:190-195,1996.)の方法を用いて組織学的に解析した。結果。1.椎間板の水平裂が全240椎間板の92%に、垂直裂が38%に、軟骨板の断片化が23%に、椎間板ヘルニアが9%にみられた。すなわち、胸椎の椎間板変性が水平裂、垂直裂、軟骨板断片化、ヘルニアの順に進むことが捉えられた。2.椎間板ヘルニアが11例(55%)にみられ、このうち5例では多発していた。3.ヘルニアは、軟骨板が含まれるものと、軟骨板がみられず随核と線維輪からなるものの2種類が観察された。4.軟骨板が含まれるヘルニアは変性が最も進んだ椎間板で発生し、随核・線維輪のヘルニアは変性の少ない椎間板で発生していた。これらの研究成果は、これまでの内外の報告に見られないものである。ヘルニアの多発生の問題は、今後に、椎間板後方線維輪および後縦靱帯のコラーゲン組成を個体間で比較する研究へと展開する計画でいる。
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