変形性股関節症患者の手術時に患者の同意を文書で得た上で、本来破棄されるべき大腿骨転子間部の骨片を無菌的に採集、同骨組織より大腿骨骨芽細胞の初代培養に成功した。それらの骨芽細胞から骨芽細胞遺伝子mRNA抽出・精製を行った。次いでMolecular Index法(1996年)によるRNAフィンガープリントを行うための前準備として、同法の実施に必要なDNAオリゴマー66種の合成を行った。MolecularIndex法およびDifferential Display法によるRNAフィンガープリントを実施し、骨棘発達の程度の相違によって特異的に発現する遺伝子の転写物を分離し、DNAシーケンス上でその塩基配列を解析した骨棘発達に伴い発現が促進される遺伝子3個および抑制される遺伝子2個を選定し、それぞれの遺伝子配列に相補的なオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、ノーザンブロット法により、各患者の骨芽細胞における遺伝子発現を確認する作業を実施した。その結果、代謝酵素系および分化誘導因子の遺伝子について症例に応じた特異的な発現が見られた。これらの遺伝子は変形性関節症の病期の進行に関与すると考えられ、骨棘発育を促進する機序の解明につながる基礎データと考えられる。また骨棘自体は修復反応とも見なされており、実際に骨棘発達の著しい患者では関節温存の手術法である骨切り術の成績が良好であるという事実もあり、本研究の結果を応用することにより、臨床上、骨切り術の成績が良好と予想される患者の選定に有用と考えられ、さらに新たな治療法の確率につながると考えられる。
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