(1)全身麻酔中の肺胞マクロファージの変化について。 全身麻酔中の肺胞マクロファジ-(AM)機能を貪食能および殺菌能の変化で評価した。麻酔時間が遷延するにつれて、これらの機能は著しく低下したが、揮発性麻酔薬の方が高度に抑制された。その他組織学的にも、好中球の肺胞内流入や凝集が認められたが、いずれも揮発性麻酔薬の方が高度であった。AMの貪食能や殺菌能の低下は、ARDSなど重症肺疾患にしばしばみられる。また凝集や好中球の増加は肺胞内の炎症を強く示唆する。これらの結果から、麻酔時間が遷延するにつれて、肺の免疫能は著明に傷害されることが判明した。また肺の免疫能保持という観点から、揮発性麻酔薬の使用は必ずしも有用ではないことが示唆された。我々の所見は免疫不全を有する患者の麻酔薬の選択について、客観的データを提供するかも知れない。 (2)全身麻酔中のAMのサイトカインの遺伝子発現について 全身麻酔中に、インターロイキン(IL)-1、6、8、インターフェロン-γ(IFN)、腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症性サイトカインの遺伝子発現を検索した。麻酔導入直後には、これらの遺伝子発現はなかった。麻酔時間が遷延するにつれて、遺伝子の発現が増加した(IL-6を除く)。手術侵襲の小さい手術を対象にした結果では、遺伝子の発現は揮発性麻酔薬の方が高度であった。この所見から、遺伝子レベルでもAMが炎症反応を惹起することが確かめられた。 (3)動物実験による検索 ラットを用いた実験で、揮発性麻酔薬による炎症性サイトカインの発現が認められた。揮発性麻酔薬の中では、ハロセンが最も遺伝子発現が高度であった。
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