今年度は吸入麻酔薬が虚血-再灌流中の心筋細胞ナトリウム/カルシウム交換系に与える影響を検討した。マウスの胎児心より培養心筋細胞を得、虚血-再潅流中の心筋細胞ナトリウム/カルシウム交換系の機能変化を明らかにする目的で、過酸化水素を含む溶液灌流前後での心筋細胞内カルシウム・ナトリウム濃度の変化を、カルシウム感受性蛍光色素Indo-1とナトリウム感受性蛍光色素SBFIを用いて検討した。各イオン感受性蛍光色素を心筋細胞に負荷したのち、虚血-再灌流モデルにおける心筋細胞内カルシウム・ナトリウム濃度の変化を平成8年度購入の細胞内イオン測定装置(CAM-230、日本分光)で測定した。過酸化水素を投与すると心筋細胞内カルシウム濃度は徐々に増加し、高濃度では拍動は停止した。心筋細胞内ナトリウム濃度は一過性に上昇したあと前値にもどった。吸入麻酔薬であるハロセンは過酸化水素存在下での心筋細胞内カルシウム濃度の上昇を抑制した。ハロセンは心筋細胞内ナトリウム濃度変化も抑制した。今回の方法では細胞膜ナトリウム/カルシウム交換系の機能を直接観察していないため、ハロセンが細胞膜ナトリウム/カルシウム交換系に対し直接作用を有するか否かは不明であるが、ハロセンの細胞内カルシウム・ナトリウ濃度の上昇を抑制する作用が、虚血-再灌流時の心筋傷害に対するハロセンの保護的作用に関与することが示唆された。
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