平成8年度の設備備品費を用いて、心筋活動電位測定のための微小ガラス電極電位測定装置一式を完成させ、正常に作動することを確認した。 近年心筋活動電位第三相を形成する遅延整流カリウム電流の抑制が一方では抗不整脈作用を発揮するが、他方では逆説的に致死的不整脈を誘発するために注目されている。またこの電流は一見心臓の電気生理とは関係のなさそうな種々の薬物によって抑制される。麻酔科領域では近年周術期の制吐薬として、5-ハイドロキシトリプタミン(セロトニン)3受容体遮断薬であるオンダンセトロンが使用されはじめた。この薬物はイヌの心室筋細胞を用いた実験で、やはり遅延整流カリウム電流を抑制することが報告されている(Br.J.Pharmacol.113:527-535)。周術期の制吐薬として従来から使用されている薬物にはドロペリドール、メトクトプラミドがあるが、ドロペリドールにも活動電位持続時間の延長作用があることが知られている。従ってこれらの薬物の、特に併用された場合の安全性については十分な検討が必要と考えられる。 本研究では第一段階として、現在上記3種の薬剤が単独で心筋活動電位持続時間にどのような影響を与えるのかを検討している。モルモット乳頭筋を0.5Hzの頻度で電気刺激し、微小ガラス電極を心筋細胞内に刺入して活動電位を測定する。その結果メトクトプラミドには活動電位持続時間の延長作用は認められず、むしろ軽度短縮した。一方ドロペリドール3μMは活動電位持続時間を約15%延長した。またオンダンセトロン10μMは活動電位持続時間を約25%延長することがわかった。今後はさらに例数を増やすとともに、併用した場合にどのように変化するか、β-アドレナリン受容体刺激作用が加わった場合に、これらの薬物によって早期後脱分極が誘発されるかどうかについて検討を加えていく予定である。
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