病院外における救急救命率の改善のために、一般市民を舛象とした、心肺蘇生の方法について検討した。従来広く普及している「蘇生のABC」は、気道確保(A)、人工呼吸(B)、心マッサージ(C)を重視した処置である。長年この方法が用いられてきたが、救命率の改善は認められていない。その原因として、推奨されている「口対口」人工呼吸時の身体接触による感染症伝播の危険性のために、心肺蘇生の行為自体が忌避されることがあげられる。また、早期に心室細動に対する処置がなされないので、自己心拍に復帰する機会を失っている。心室細動には電気的除細動が必要であるが、低酸素状態が進行していると無効であるだけでなく、通電がかえって心筋に障害を及ぼし、蘇生を困難にする。 そこで、本研究では、まず、心室細動に対して電気的除細動を正しく行うために必要な「最適条件」を、心電図波形と経皮的二酸化炭素分圧を指標として検討した。心室細動の心電図の波形を指標とした電気的除細動の最適条件は、振幅が0.5mV以上の大きな電位で、かつ、10Hz以上の細かい周波数を持ったものであることが示された。その範疇を外れた場合、心筋の酸素化を目的として、酸素を投与しつつ、冠状動脈圧を保つために血管収縮剤を使用して心マッサージを続行するべきである。経皮的二酸化炭素分圧を指標とした場合は、これが80mmHg以下であることが必要であることが明らかとなった。以上の条件を組み込んだ自動除細動器を広く普及させることによって、心室細動に対する処置を、一般市民が、安全に適確に早期に行えることが期待できる。 次に、「圧すだけの蘇生」の有効性について検討した。「口対口」の人工呼吸を行わなくても、心マッサージの間欠的に前胸部を圧迫する行為と、低酸素血症による自発的なGaspinng(喘ぎ呼吸)が、蘇生に必要な肺胞換気を確保していることが実験的に示された。
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