研究概要 |
イオンチャネル型ATP受容体サブクラスP2X3が侵害刺激を伝える後根神経節(DRG)ニューロンC線維の侵害受容器に限局して発現していることが明らかにされ,「ATPと痛み」の関係が注目されてきた。痛み伝達の機能はP2X3とP2X2のヘテロポリマーにより担われているとの指摘もあるが詳細についてはほとんど未検討であったので,我々はまずラットグリオーマ由来細胞C6BU-1あるいはヒト腎臓上皮細胞由来HEK293にP2X3およびP2X2のcDNAを強制発現させた系を用いて,細胞内カルシウム濃度([Ca]i)および電気生理学的指標により,昨年度に引き続き,痛みの情報伝達におけるATP受容体群の生理機能に関する基礎研究を行った。その結果,次のような成果を得た。 (1)ATP受容体P2X3およびP2X2のcDNA,あるいはそれぞれ単独に導入し受容体を発現させる系(リポフェクトアミン法)を用いた電気生理学的研究:ATP刺激により,P2X2発現系では比較的大きな持続的な内向き電流が引き起こされ,P2X3発現系では比較的小さく急速に減少する内向き電流が引き起こされた。P2X3およびP2X2同時発現系では,ATP刺激により両者の中間に位置する性質を持った内向き電流が引き起こされた。濃度依存性の検討ではP2X2発現系ではATPの高濃度(>30uM)から作用が認められたが,P2X3発現系ではより低濃度(>1uM)から作用が認められた。P2X3およびP2X2同時発現系での用量作用曲線はそれぞれ単独とは明らかに異なり,両者のほぼ中間に位置した。 (2)上記系を用いたCaイメージング:P2X2発現系では,ATPによりかなり大きな[Ca]i上昇が認められ,αβーメチレンATPには全く反応しなかった。一方P2X3発現系では,[Ca]i上昇は非常に小さいかあるいはほとんど認められなかったが,αβーメチレンATPには一度だけ大きな反応を示した。P2X3およびP2X2同時発現系では,ATP刺激により安定した大きな[Ca]i上昇が認められ,さらにαβーメチレンATPに対する反応性も獲得した。 (3)以上の成績から,P2X3およびP2X2同時発現系はそれぞれの単独発現系とは明らかに異なる性質を示し,おそらくヘテロな発現系として機能していることが推察された。ヘテロになることにより[Ca]i上昇は有利となり,おそらく生理的意義もこの点にあるのではと考えられる。次年度は,実際のDRGでの反応と比較検討し,痛み情報伝達におけるATP受容体群の性質を明らかにしていく。
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