研究課題
基盤研究(B)
固形癌の増殖には血管新生が必要不可欠である。これまで血管新生因子あるいは微小血管密度が腫瘍の組織学的悪性度や患者予後と相関することが示されつある。現在、腫瘍の進展度、転移あるいは再発を知る手段は画像診断に限定されているが、これらをより簡便に診断する生化学的指標があれば臨床上きわめて有用である。血管内皮成長因子(VEGF)と塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)は血管新生を惹起する代表的な生理活性物質として知られ、腫瘍により産生されたこれら物質の一部は血中にも遊離する。本研究では腎癌患者におけるこれらの血中濃度を測定し、その臨床的意義を検討した。40例の腎癌患者と40例の非癌患者を対象とし、VEGFとbFGFはELISA法を用いて測定した。腎静脈血中のVEGF濃度は20例中17例(85%)で健側に比して患者で有意に高値を示した。腎静脈血中のVEGF濃度は71.5±9.1pg/ml、腎癌患者は207.3±32.9pg/mlであり、後者が有意に高値を示した(p<0.005)。カットオフ値を100pg/mlに設定した際の感度と特異度はそれぞれ80.0%と72.5%であった。いっぽう血中bFGF濃度は非癌患者14.7±3.0pg/mlに対し、腎癌患者14.4±1.9pg/mlと有意差を認めなかった。また、血中VEGFは主要の進展度、転移の有無および臨床病期と有意に相関した。さらに、腎摘例6例中5例で術後4週目の血中VEGFの低下を認め、腎癌の進行を来した3例で高値を示した。以上の結果から血中VEGF濃度は腎癌患者の臨床像を反映し、再発・転移を予測する生化学的指標になる可能性が示された。
すべて その他
すべて 文献書誌 (2件)