研究概要 |
本年度は1)ヒト前立腺の加齢による形態変化、2)前立腺平滑筋細胞のin vitro modelの確立、3)cell adhesion kinase b(CAK b)の前立腺における発現、を検討した。1)40歳以上の男子の前立腺は経直腸的超音波断層法(TRUS)では3つの形態に分類可能であった。TRUS上前立腺が均一に観察されるGroup1は40歳代に圧倒的に多いが、この形態を50歳代になっても保っている男子では前立腺のサイズの増加を認める例は少なかった。TRUS上一部に結筋を認めるGroup2の例ではその後結筋肥大が明らかになるGroup3の例が、一部に出現し前立腺のサイズの増加を伴った。しかし一部の例ではGroup2のまま経過した。したがって、将来前立腺の肥大を伴うかどうかのturning pointは50歳前後にあることになり、この時期を過ぎてもGroup2,3に移行しない場合には前立腺肥大をきたす可能性は低いと考えられた。2)モルモット前立腺から前立腺平滑筋細胞を分離・培養し5代まで継代可能な細胞株を樹立した。この細胞株式会社が平滑筋由来の細胞であることは、免疫組織化学染色、電顕、交感神経α-受容体刺激剤により収縮反応により確認できた。実験的検討には有用なmodelと考えられた。3)ras oncogeneを介するsignal transductionおよび細胞の分化に関与する新しい非受容体型protein tyrosin kinaseの前立腺組織における発現をin situ PCR法、免疫組織染色で検討した。正常前立腺組織では腺管の基底側の細胞および間質に強い発現が認められたが、前立腺肥大症では発現が減弱していた。一方、前立腺癌ではその発現は分化度と関係し、高>中>低であった。この結果は、前立腺肥大症あるいは癌の発生母地となる細胞が異なることを示唆するものと思われた。
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