女性性腺機能は、視床下部-下垂体-卵巣系により規定されている。すなわち、視床下部より律動的に分泌されるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)が下垂体性ゴナドトロピンであるFSHおよびLHの合成・分泌を促し、このゴナドトロピン刺激により卵胞発育・排卵が惹起されるのと同時に卵巣性ステロイド・ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)が産生される。これらのホルモンの生合成は正負のフィードバック機構により互いに調節されている。この視床下部-下垂体-卵巣系の異常が排卵障害の原因となるが、下垂体性排卵障害患者においては、1)GnRHに対する反応異常、すなわちGnRH受容体(GnRH-R)の異常、2)GnRHとGnRH-R結合後の情報伝達異常、3)ゴナドトロピン遺伝子の発現異常、4)ゴナドトロピン自体の構造異常、などが推察される。そこで本研究においては、下垂体性排卵障害の病因解明のため以下の検討を加えた。 名古屋大学医学部附属病院産婦人科不妊外来において、通院中の排卵障害患者を対象に、血中LH・FSH値の測定およびGnRH負荷テスト後のゴナドトロピン反応パターンより、下垂体性排卵障害患者6名を選別した。下垂体性排卵障害患者より採血し、リンパ球分画を調製した。この分画よりグアニジン法によりDNAを抽出した。この操作により下垂体性排卵障害患者のDNAを得た。このDNAをテンプレートとし、PCR法にてゴナドトロピンα鎖遺伝子の上流約300bpの発現調節領域を増幅した。増幅されたDNAをTAクローニングによりプラスミッドに組み込み、シークエンシング装置により塩基配列を決定した。既に報告されている塩基配列と比較することにより、当患者がこの領域に変異を有するか否かを判定した。その結果、この6名いずれにも調節領域の異常は発見されなかった。
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