研究概要 |
本研究では、胎児・胎盤など胎児側の臓器と子宮筋・脱落膜など母体側の臓器の相関において、妊娠維持と胎児発育に最適な子宮内環境が形成される機序の解明を目的とし以下の成績を得た。 1.TPA処理によりHL-60細胞はmacrophage様に変化しPAF-AHを分泌するようになるが、このmacrophage化したHL-60細胞からのPAF-AH分泌はTGF-βやcortisolの添加で抑制された。 2.一酸化窒素(NO)の代謝物であるNOxおよびNOのsecond messengerであるcGMPの血中濃度は妊娠中期には上昇したが分娩直前には非妊時の値まで低下し、陣痛発来時には更に低下した。 3.ヒト子宮筋におけるアンギオテンシンII受容体(AT1,AT2)遺伝子発現は、妊娠によってdown regulateされるが、これにはステロイドホルモンが関与していることを明らかにした。 4.妊娠子宮筋におけるprostagl and in E2およびF2α受容体(EP3,FP)遺伝子発現は非妊子宮筋に比して約半分に低下していた。 5.妊娠中のEP3,FP発現抑制にはステロイドホルモン以外の因子が関与していると考えられた。 6.ヒト胎盤絨毛細胞にはleptin遺伝子が発現しており、母体血中および胎児血中へとleptinを分泌していることが示された。 7.絨毛性疾患合併婦人の血中leptin濃度は正常妊娠初期に比して著しく高値を示した。 以上より、妊娠中は脱落膜でのPAF代謝、cGMP産生、子宮筋のangiotensin IIおよびP受容体発現のdown regulateにより子宮収縮を抑制する妊娠維持機構が存在することが示唆された。また、I胎盤絨毛細胞で産生されるleptinは妊娠の生理・病態生理に関与している可能性が示された。
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