研究概要 |
上咽頭癌(Nasopharyngeal carcinoma,NPC)とEpstein Barr virus(EBV)の関連性は、患者血清中の抗EBV抗体価上昇や腫瘍組織内EBV核酸の証明などにより確立されている。特にウイルス複製サイクルに発現する早期抗原(early antigen、EA)や後期蛋白のEBV粒子抗原(viral capsid antigen,VCA)に対するIgA抗体は発症時にすでに上昇しており、疾患特異性も高いことから、病勢のマーカーとして用いられている。しかし腫瘍細胞ではウイルス複製サイクルはしばしば不完全に終わり、いわゆる流産感染となっている。このことを考えると、ウイルス複製サイクルにおいて早期抗原よりもさらに早く発現する前早期抗原(Immediate early antigen)である、Z蛋白やR蛋白に対する生体反応のほうがより早く病状を反映する可能性が考えられる。そこで今回、Z蛋白やR蛋白に対する血清抗体価を調べることにした。Z蛋白、R蛋白はそれぞれBZLF1,BRLF1遺伝子発現プラスミドを構築し、精製した。これらを抗原とし、担癌NPC患者、NPC緩解後患者の他、EBV関連疾患であるIM,ホジキン病患者や他の頭頚部癌腫瘍患者、および健常者血清との反応を、ウエスタンブロット法、ELISA法で検討した。その結果、担癌NPC患者では、全例抗Z蛋白、R蛋白抗体陽性であり、ELISA法での吸光度も他の群と比べ高値を示した。VCA-IgA抗体価と比較しても、抗Z蛋白、抗R蛋白抗体陽性はNPC特異性が高かった。以上よりNPC患者における抗Z蛋白、R蛋白抗体価測定は病勢の有用な指標となり得ると結論された。
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