研究概要 |
聴覚伝導系に関する蝸牛または個々の感覚細胞レベルにおける、イオン輸送系について本年度の研究を進めた。音刺激が神経の電気信号へと変換される際に重要な役目を担っているのが蝸牛有毛細胞である。有毛細胞の感覚毛には音の振動刺激を感知して開閉するトランスデューサーチャンネル(Mechano-electrical transducer channel,MET channel)が存在し非選択的に一価、二価の陽イオンを通す。生体では内リンパは高KなのでKイオンが通るが、実際にはCaイオンの透過率が高くMETチャネルに対して重要な役割を持つ。METの開閉と順応には細胞外Caイオンが重要であると言われているが、この時の種々の反応過程において細胞内Caイオンが上昇する。しかし細胞内Caイオンが逆にMETチャネルにどのように作用するかはわかっていない。そこで、本年度は同一の有毛細胞でコントロールと細胞内Caを上昇させた状態をつくり、この二つの環境下でMET電流を測定した。細胞内Caの上昇は1)Caged化合物(Nitr-5)2)高Ca液による細胞内潅流、の二つの方法で行った。その結果細胞内Caイオン増加により、KCl細胞内溶液では外向きにCa活性化K電流、CsCl溶液では内向きにCa活性化非選択的陽イオン電流が惹起された。また細胞内Caイオン増加によりMET電流は有意に抑制されることが判明した。この結果は、有毛細胞の興奮過程で電位依存性Caチャネルを通り細胞内に流入したCaイオンが同時に直接METチャネルを抑制する可能性を示す。つまり、興奮性に細胞内Caイオンが増加している際には、遠心性の抑制性フィードバックがかかる前にMETチャネルにすでに抑制がかかるという新たな二相性の抑制機構が示唆された。
|