研究概要 |
ヒト感音難聴の病態解明のために,本年度は内耳奇形を有すると想定される実験動物としてWriggle Mouse Sagami(WMS)マウスの内耳形態を観察した。WMSマウスはBALB/c近交系マウスより自然発生した突然変異である。遺伝形式は常染色体劣性であり、ヘテロ接合体は正常と見分けがつかず、ホモ接合体のみ行動異常を呈す。ホモ接合体は出生直後は正常だが、生後約2週間で、振戦、首振り運動、回旋運動等の行動異常が見られるようになる。下肢、尾は伸展し、上肢は屈曲する傾向を示し、素早い行動はできず、のたうち、捻転しつつ体全体を使ってにじり進む。安静時は腹臥位をとらずに仰臥位、側臥位をとる傾向にある。WMSは今まで、その行動異常の原因究明のため、主に中枢神経系が検索されてきたが、明らかな異常は認められていなかった 各月齢のWMSをネンブタールにて深麻酔し、断頭直後に内耳骨包を摘出した。グルタールアルデヒドによる固定後、光学顕微鏡用標本を脱灰、エポン包理を経て作成し、走査電子顕微鏡用標本をCO_2による臨界点乾燥にて作成した。対照としてBALB/cを用い、同様の標本を作製した。走査電子顕微鏡は、日立製S-4100を使用した。 生後2週間、1カ月の蝸牛中回転のコルチ器は、内外有毛細胞の配列、感覚毛の形態ともに正常であった。しかし、生後3カ月の蝸牛中回転におけるコルチ器では、感覚毛が脱落したり、形態異常が認められた。また、散在性に外有毛細胞が欠落していた。内有毛細胞は比較的保たれていた。蝸牛基底回転において、ラセン神経節細胞の減少をみた。これは対照としたBALB/cの同月齢、同部位と比較して明らかであった。 生後1年の蝸牛では、全回転においてほぼ全ての有毛細胞が欠落し,ラセン神経節細胞の減少はより著明となり、蝸牛神経線維数も高度に減少していた。 以上より,このマウスは内耳奇形動物の実験動物になりうると判断された。
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