研究概要 |
ヒトの感音難聴は遺伝性のものが多いにも関わらず,同定されている遺伝子は数少ない。その理由としては,ヒトでの遺伝子解析の困難と,生体から内耳の組織採取が困難であるためである。本研究では,聴覚障害モデル動物を用いて感音難聴の病態解明を行った。 当該年度には,行動異常マウスとして知られていたWriggle Mouse Sagami(WMS)を検討した。本マウスはホモ接合体のみ,生後約2週で振戦,首振り運動,回旋運動などの行動異常を呈する。交配実験によって遺伝型式を明らかにした。組織学的にはホモ接合体において,生後3カ月より蝸牛コルチ器と球形嚢の変性が認められた。ヘテロ接合体では,蝸牛コルチ器にホモ接合体と同様の変性を認めたが,球形嚢は正常であった。聴覚については,ホモ接合体は生後早期より高度の難聴を呈した。ヘテロ接合体は,生後早期は中等度の難聴であるが加齢とともに難聴は進行し,生後1力月でホモ接合体と同等の高度難聴となった。交配により行動異常は常染色体劣性遺伝,難聴は常染色体優性遺伝であることが明らかになった。以上から本マウスは内耳奇形マウスであり,ヒト内耳病変の実験動物モデルであることが判明し,原因遺伝子の同定のために,遺伝子単離のポジショナルクローニングを開始した。遺伝子座は染色体6番に存在することが,現在までに分かっているので,マッピングされた位置に対応するゲノムDNAを酵母人工染色体によりクローン化した。一方,本マウスと同様な高度難聴と行動累常を示す内耳奇形マウスの遺伝子変異がATP関連酵素で同定された。本マウスにおいても同様な遺伝子変異が存在する可能性が高く,当該遺伝子のシークエンスを検索して,変異の有無の検討を開始した。
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