研究者は従来の眼科的治療法では回復が望めない、高齢者の中途重度視覚障害者(以下、障害者)および先天疾患による視覚障害児(以下、障害児)に対して、感覚統合訓練による眼科的治療法の確立を目指してこの研究を進めてきた。すなわち、まず、感覚統合訓練の基礎的要素である前庭機能および平衡機能と眼球運動との関連を分析するために既存の前庭刺激装置を用いて眼科分析用にソフトを改良し(平成8年度)、ついで、この装置を用いて前庭刺激としての強度の回転刺激を負荷した場合、およびその回転刺激を訓練として行った場合について、正常者と視力障害を有する先天眼振者(児)で検討した(本年度)。20歳代の正常成人においては、通常の回転刺激時に認められる等加速刺激時と等減加速時の眼振持続時間の比が、回転刺激を急激に停止させる強度の前庭刺激を施行した後には短縮する。しかも、運動能力の低いものはその短縮率が80%以下になることが明らかとなった。この方法は新しい前庭機能検査になり得ると考えられた。先天眼振を有する障害者(児)では、通常の回転刺激時の等減加速時の眼振持続時間が全例で短縮していたが、回転刺激を急激に停止させる強い前庭刺激を繰り返し行う(検査時は3回刺激、家庭では1日数+十回刺激の訓練)と、衝動型眼振例では7例中5例、振子型眼振例では2例中1例に、眼振持続時間が延長して正常化したが、不定形型(固視不良型)眼振例は全例(3例)とも眼振持続時間の変化がなかった。先天眼振例は一般に運動能力が低く、平衡機能も不良例が多いことが、その原因として考えられるが、特に衝動型眼振例は強い前庭刺激訓練によって前庭機能が正常化する可能性が実証された。この方法は視覚障害が長期に存在している高齢障害者にも応用できると考えている。
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