研究概要 |
Porpyoromonas gingivalisの宿主組織への定着に際し,線毛が付着因子として重要な役割りを担っていることが明らかにされている.そこで本研究ではP.gingivalisが産生するプロテアーゼの精製と本菌の線毛を介する付着に及ぼすプロテアーゼの作用および同付着の阻害について検討した. P.gingivalis 381株全菌体の超音波破砕物からカラムクロマトグラフィーにより,合成基質(L-BAPNA)の分解を指標にプロテアーゼを精製した.本プロテアーゼはゲル濾過で分子量が55000,L-BAPNA分解の至適pHは7.5であった.各種合成基質に対する特異性はP1サイトにArgが存在するペプチドを分解することが特徴的であった.同酵素は,ロイペプチン,アンチパインにより強く阻害された.以上より本プロテアーゼはArg特異的なシステインプロテアーゼであることが明らかとなった.また,線維芽細胞あるいは固相化したフィブロネクチンを本プロテアーゼで前処理し,線毛の付着を行なったところ,未処理群と比較して優位に付着が増加した.この付着増加は前述の種々の阻害剤によって抑制されることからプロテアーゼの作用によると考えられる.また線毛の各種ジペプチドリガンドに対する吸着はGly-Argに対してのみ観察された. 次に,ビオチン化した線毛は固相化したコラーゲン,フィブロネクチン等の細胞外マトリックスタンパク(ECMP)に対して強く結合することが酵素発酵法により示された.線維芽細胞に対する線毛の付着は,ECMP,あるいは抗ECMP抗体処理によって抑制されることから,線毛はECMPを介して線維芽細胞への付着することが示唆された.また線維芽細胞あるいは固相化ECMPをプロテアーゼ処理し,線毛の付着本能を行うと,未処理群と比べてその付着は線維芽細胞で約8倍,ECMPの場合で約2倍に増加した.これらの付着増加はプロテアーゼ阻害剤を添加することで抑制された.また固相化ECMPをプロテアーゼ処理後,L-Agr共存下で線毛の付着反応を行うと添加したL-Agrの濃度に依存して付着は抑制された. さらに,純化線毛とフィブロネクチンとの分子間相互作用をBIAcoreを用いて解析した.その結果,線毛のFNへの結合はプロテアーゼの作用によって顕著に上昇すること,線毛はArg残基にのみ相互作用を示すことが示された.以上より,線毛はArg残基,特にC末端Arg残基に対して強い親和性を有することが明らかとなり,P.gingivalisプロテアーゼは線毛レセプターを顕在化する点で宿主組織への感染に際して極めて重要な働きをしていると思われる.逆にC末端にArg残基を含むペプチドは線毛と宿主細胞の付着を抑制する物質として実際的意義があることが強く示唆された.
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