研究概要 |
完成したエナメル質は生体内で最も高度に石灰化した組織で、有機質は殆ど含まれていないが、形成初期のエナメル質には約30%ものタンパク質(主としてアメロジェニン)が含まれており、これが石灰化の進行にともなってエナメル質から消失していく。このエナメルタンパク質は分化したエナメル芽細胞によりエナメル質形成過程の一時期にだけ合成され、細胞外に分泌され、その石灰化に重要な役割を演じていると考えられているが、その分子レベルでのメカニズムについては明かではない。本研究ではエナメル芽細胞の分化および形成の機構を明らかにする目的で、アメロジェニン遺伝子とエナメリン遺伝子についての分子生物学的研究を行った。また歯牙交換期における歯根吸収の分子メカニズムについて明らかにする目的で、歯根吸収におけるタンパク質分解酵素の関与について解析を試みた。 1. マウス・アメロジェニン遺伝子のクローニングと構造決定 マウス・染色体遺伝子ライブラリー(EMBL-3 SP6/T7 Clontech)をウシ・アメロジェニンcDNAをプローブとしてクローニングした。主としてPCR法によりこの遺伝子のエクソン、イントロン構造を解析するとともに、第一エクソンよりも上流領域の塩基配列を決定した。得られたクローンは約14kbの長さで、第一エクソンから上流は5.5kbの長さがあった。この遺伝子の構造、塩基配列は図1、2、3に示した。遺伝子発現調節領域にはTATA,inverted CCAAT,GATA-1,AP-1,GRなどの配列がみられた。 2. ウシ・エナメリンのcDNAクローニング ウシ・永久歯歯胚よりエナメル芽細胞に富む層を採取し、通法によりRNA抽出、poly(A)^+rich RNAを精製して逆転写酵素によりcDNAを作成し,λGT11 expression vectorに組み込み、ライブラリーを作成した。ブタ・エナメリンcDNA塩基配列を参考にしてエナメリンのPCRプライマーを設計し、ブタ歯胚のRNAを鋳型としてPCRを行った。このPCR産物をプローブにして、ウシ・エナメル芽細胞cDNAライブラリーをスクリーニングし、ウシ・エナメリンcDNAを得た。このcDNAをpET29c(+)expression vectorに組み込み大腸菌により、リコンビナント・エナメリンタンパク質を作成し、これを家兎に免疫をし、抗体を作成した。この抗体を用いて、ウシ・永久歯歯胚のエナメリンの発現を検討した。免疫組織化学的検索によるとエナメリンの分泌はエナメル質の石灰化と深く関わっているように思われた。 3. ウシ・乳歯歯根吸収組織のタンパク質分解酵素 歯牙交換期における歯根吸収組織から通法によりRNAを抽出し、MMP-1,MMP-2,MMP-9.MMP-13,MT1-MMP,カテプシンKのRT-PCRにより、また一部のものについてはノーザンプロット法によりそれぞれのタンパク質分解酵素について発現を検討した。さらにゼラチンザイモグラフィーによりMMP-2.MMP-9の酵素活性についても検討を加えた。その結果、MMP-1,MMP-9,カテプシンKが歯根吸収におけるタンパク質の分解に深く関与しているらしいことがわかった。
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