研究概要 |
成長期の個体に放射線を照射すると骨格の発育成長異常が発生すること、あるいは照射により骨折や関節炎が起こりやすくなることが報告されている。そこで我々は放射線が骨形成やリモデリングを障害する機構を解析するためにマウス頭蓋骨から分離された骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1細胞を用いて骨形成に対する放射線の影響を検討した。MC3T3-E1細胞はI型コラーゲン、アルカリホスファターゼ活性(ALPase活性)、オステオカルシンなどの分化形質を発現し、石灰化を誘導する。昨年度の研究で放射線照射はMC3T3-E1細胞の増殖を抑制するものの、細胞あたりのALPase活性と石灰化を上昇させることが判明した。これらの結果をもとに本年度は以下の研究を行った。 1,ALPase活性以外の石灰化誘導に関連する因子、すなわち、I型コラーゲン、オステオポンチン、オステオネクチン、あるいはオステオカルシンの発現レベルの変化を検討した。10GyのX線照射はI型コラーゲンの合成と蓄積を促進したものの、オステオポンチンとオステオネクチンのmRNAの発現レベルには影響を与えず、またオステオカルシンの発現は抑制した。 2,放射線照射による細胞周期上のG1期での停止には、p53遺伝子の発現およびp53依存性に発現するp21遺伝子が関与していることが報告されている。一方、正常な筋組織や消化管組織において細胞増殖を終了し最終分化に向かう細胞においてはp53非依存的にp21が発現することが判明している。そこで、X線照射後のMC3T3-E1細胞の分化がp53依存的なp21の発現により制御されているかを検証するために、照射後のp53あるいはp21蛋白あるいはmRNAの発現レベルの変動を追跡した。10GyのX線照射はp53およびp21の発現に影響を与えなかった。
|