研究概要 |
成長期の個体に放射線を照射すると骨格の発育成長異常が発生すること、あるいは照射により骨折や関節炎が起こりやすくなることが報告されている。そこで我々は放射線が骨形成やリモデリングを障害する機構を解析するためにマウス頭蓋骨から分離された骨芽細胞様細胞株MC3T3-E1細胞を用いて骨形成に対する放射線の影響を検討した。MC3T3-E1細胞はI型コラーゲン、アルカリホスファターゼ活性(ALPase)活性、オステオカルシンなどの分化形質を発現し、石灰化を誘導する。本研究ではMC3T3-E1細胞の増殖、分化および石灰化に及ぼすX線照射の作用を詳細に検討した。 1.1から10GyのX線照射はMC3T3-E1細胞の増殖を線量依存性に抑制し,この作用は分化段階の初期ほど大きかった。 2.10GyのX線照射は細胞あたりの石灰化量(カルシウムの蓄積量)増加させた。また、照射群の石灰化物はCa/P比が1.75-2.00であり、正常な骨芽細胞が産生するハイドロキシアパタイトと同一であると考えられた。 3.骨芽細胞の石灰化に深く関連する分化形質の発現レベルがX線照射によって変動するかを検討した。細胞あたりのALPase活性は5Gy以上のX線照射によって上昇した。コラーゲン分析の結果、X線照射は細胞一個あたりが産生するI型コラーゲン量を最大で135%上昇させることが判明した。一方、非コラーゲン性蛋白についてはノーザン法を用いて検討した結果、オステオポンチンとオステオネクチンmRNAの発現は照射による影響を受けず、オステオカルシンmRNAの発現レベルは10Gyの照射によって低下することが判明した。
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