研究概要 |
本研究は、新しい義歯の装着や咬合治療により再構成された咬合機能による咀嚼運動への順応過程あるいは適応の神経生理学的メカニズムを、顎筋活動などの末端出力結果だけでなく、上位中枢からの司令を脳波や頭皮上の電位活動としてその経時的消長から観察し、安定した咀嚼運動リズムの成立機序を中枢レベルで明らかにするとともに、大脳の活動と咀嚼運動の関連や咀嚼運動の大脳に対する刺激源としての寄与を見い出すことを目的として企画した。初年度には、申請した多用途脳波計サイナフィット2200(NEC メディカル)を用いて有顎者を被験者とし、国際10-20法式にて開眼と閉眼時の安静状態、開、閉口運動時、および食品咀嚼時などさまざまな条件下での脳波記録を行い、分析パラメータの確立について検討した。すなわち、咀嚼系の解析に有用な電極設置部位の検討や、咀嚼筋活動の混入が避けられない脳波データから有意のデータを抽出、分析する方法の確率を行った。次年度には、前述の被検運動に、テクスチャーの異なる食品を嚥下まで咀嚼させ、咀嚼前後のデータを周波数分析し、6帯域(2.0-3.8Hz,4.0-7.8Hz,8.0-9.8Hz,10.0-12.8Hz,13.0-19.8Hz,20.0-30.0Hz)にマッピング表示すると共にパワー値を求めた。得られた結果として、α波帯域(Band3+4)とβ波帯域(Band5+6)が占めるパーセント比率が咀嚼運動の前後で変化する傾向を示し、とくに硬い食品咀嚼時や良好な咬合状態でのα波の比率が増加するなど食品テクスチャーの違いによって異なり、また、脳電位の誘導部位によっても変動したほか、個人差も無視できなかった。今後は被験者を増やすと共に、長期の経時的な観察を行うこと、咀嚼運動中の筋放電間隔の脳波区間分析を試みるなどして、咬合治療による咀嚼運動の順応過程の中枢制御機構についてさらに詳細に観察し、考察したい。
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