研究概要 |
顎関節部周囲組織への代謝は,下顎頭が正常に運動することによって,関節後部組織における静脈叢のポンプ作用に維持されるといわれている.しかし,このポンプ作用に関する研究はほとんど行われていないのが現状である.本研究では,超音波ドップラーを用いた顎関節後部組織の血流動態の客観的評価法の可能性について検討することを目的とした. 実験方法として,顎口腔系に自覚的・他覚的に異常を認めない健常有歯顎者を選択した.これらの被験者に,開閉口運動,クレンチング,2分間のガクチューイングを行わせ,超音波ドップラー診断装置を用いて顎関節部の血流動態の測定を行った.また,ガクチューイング時の顎関節部深部温の測定を行い,超音波ドップラー診断装置の結果と比較検討を行った. その結果,超音波ドップラー診断装置を用いることによって顎関節後部で開閉口時およびチューイング時に,開閉口運動時およびガムチューイング運動時に同期した信号をとらえることができた.また,この際の信号は,開口時と閉口時で逆方向への動きを示した.さらに,これらの信号は開口相後半および閉口相前半に認められた。しかし,クレンチング時には,信号をほとんど認めなかった. 超音波ドップラー診断装置と顎関節部深部温の結果を比較したところ,顎関節部の血流はガムチューイング時のみに変化が認められるが,顎関節部深部温はガムチューイング終了時に変化が認められ,同期した変化は認められなかった. 以上の結果から,顎関節部では下顎運動に同調した血流の移動が認められ,ポンプ作用が存在することが示唆された.
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